【書評と要約】どのような教育が「よい」教育か(苫野一徳)~教育を哲学する

どのような教育が「よい」教育か 書評

教育は幼児教育から生涯教育、英語教育など幅広いものを指します。

その幅広い教育を考えていくにあたって、そもそも教育とはなんであり、よい教育とはどのようなものかを考えるために読んだ本です。

書評

おすすめ度:★★★★☆

個人的には哲学的な話も好きなので、非常に興味深い内容でした。

全体的に抽象的な話で、明日からすぐに使える内容や非常に具体的な方法論については触れられていません。

あくまでも哲学的に論理的に考えて、少しずつ確実なものを積み上げていくスタイルです。

非常にざっくりまとめると、以下のとおりです。

  • 教育は絶対化できないが、それでも確信としてよい教育はある
  • どのような社会、教育を欲するかという欲望論的なアプローチがもっともよい
  • 欲望の本質は自由であり、自分の自由を達成する(生きたいように生きられる)ためには、他者の自由も承認する必要がある
  • この自由を実現するために、教育が求められる
  • 義務教育では、共通基礎教養として
    • 1.諸基礎知識
    • 2.学びの方法
    • 3.相互承認の感度を学ぶべき
  • 良い教育とは
    • 1.教育方法とは制約と目的に応じたものにする
    • 2.教師は信頼と忍耐、権威という3つの資質、多様性と自己了解を持っている
    • 3.教育行政としては、一般意志、一般福祉に近いもの

教育というテーマを考えたり、思考の整理をしたりするのに役立つかと思います。

自分はそれまで、教育とは人間の可能性を拡げるものという考えでしたが、ここでの可能性は、できることが増える=自由が広がるという見方ができるというのが発見でした。

さらに、一歩議論を進めるのであれば自由度が高いことによる幸福度は十分かと思われるので、自由を幸せに変える方法までつきつめて考えていく余地があるのではないかと思いました。

日本は平均的な豊かさは増して、治安もよく、カーストや宗教対立もなく、極めて自由度が高い一方で、「やりたいことがわからない」といったぜいたくな悩みも発生しています。

とくに若い世代では、出世や結婚、所有などの価値観も相対化していく中で、「生きたいように生きられる」けど、「どう生きればいいかわからない」というのが問題になりがちなので、そこまで見据えていく必要があるのかなと思っています。

どのような教育が「よい」教育か (講談社選書メチエ)

要約的なもの

順番も内容も必ずしも正確ではないないですが、内容の参考にしてもらえれば幸いです。

  • 教育学はニヒリズムに陥っている
    • 絶対化はできないが、すべて相対化してしまうとニヒリズムになる
    • ただ、一定の共通了解を見出すことができるかも知れない
    • よい教育と「感じてしまう」という確信は否定できない
    • 確信成立の条件と構造を問うことはできる
教育とは、「各人の自由および社会における自由の相互承認の教養=力能を通した実質化である」

人間は自由を欲する存在で、自分だけじゃなく、相互承認する人が必要

  • 自由の相互承認
    • 自由というのは承認されるもの
    • 自由のあり方を調整しあっていく
    • 自らの自由を実質化するため=できるだけ生きたいように生きられるようにする
    • つまり、自分が生きたいように生きられるため、自分以外の他者も同じように生きたいように生きられるようにするために教育がある
  • アプローチにあたっては、規範と事実認識が重要
    • 教育は過度な一般化がされがち
    • 事実認識⇒診断⇒対策の流れ
    • 事実認識は改善傾向
  • 教育哲学はさまざまな対立がある
    • 新自由主義は新保守主義と手を結ぶ
    • 競争を強める、不満を押さえる
    • 学力格差と経済格差の相関関係
    • 中央集権化、教育の自由化
    • 文部省 対 日教組 日本教職員組合
  • 多様な教育
    • コミュニティー・スクール
    • 地域が学校をサポートしていく
    • コミカレ:従順な労働者を育てるための教育
    • 権力に順々な子供を育てる
  • よい教育、よい社会とは?
    • 欲望論的アプローチが有効
    • どのような社会・どのような教育を欲するか(=欲望の本質
    • 欲望の本質は自由?
    • 絶対的な心理ではなく、できるだけ広範かつ深い共通了解の得られる、いわば洞察のことである
    • 「私たちはどのような生を欲するか、その人間的欲望の本質を解明し、その上で、すべての人のそのような欲望を最も十全に達成しうる社会的・教育的条件を探索する」ということのほかにない。
    • 道徳・義務
    • 道徳的にいっておかしい
    • プラグマティック
    • 絶えざる経験の再構成であり、成長それ自体にある
    • 自由≠なんでもやりたいことができる。複数の欲望があり、制限を感じてしまう
    • 私たちを制限している自らの諸欲望を十分に自覚し、その上で、できるだけ納得して、さらにできるなら満足して、「生きたいように生きられている」という実感を得ること
    • 感度としての自由を、自由の本質として論じた
  • 自由を確信するための成立条件
    • 幸福の本質には自由?
    • 自由の感度が幸福の本質契機
    • 他者からの承認
  •  社会の原理:自由の相互承認
    •  生死を争う
    •  絶対的に押さえつける
    • 恐怖政治
    • 法と権力
    • 力能を得るための教育
  • すべての人の意思を代表している
    •  政治権力の正当性をはかるための基準原理
    • ≠絶対的に達成するものではない
    • 法制定手続きによる
    • 自由の相互承認であり、これを保証する正当性の原理は一般意志であること
  • 良い教育とは?
    • 法と権利を実質化する
    • 一定の教養=力能がなければ、現実に実質化することはできないから
      • 一定の知識教養
      • 自由の相互承認の教養=力能を通した実質化
      • 人間は、教育によってはじめて人間となることができる
      • 共通基礎教養
        • 1.諸基礎知識
        • 2.学びの方法
        • 3.相互承認の感度
      • 自由の相互承認が認められる範囲内において、私教育は認められる
        • 個々人にあった教育は魅力的
        • でも格差=自由を求められる度合いが広がる
        • 不登校、いじめ、超優秀
    • 現状は選抜機能
      • もっと多様性があったほうがいい
  • 一般福祉の視点
    • 1.リバタリアンニズム
    • 2.功利主義
    • 3.リベラル平等主義
  • 実践理論
    • 1.教育方法、指導法
    • 2.よい教師の条件、あるいは資質
    • 3.よい教育行政のあり方
  • 経験主義:個性、系統主義:教え込み
  • 経験=哲学原理としての経験と教育の1つのアプローチとしての経験がある
  • 目的・状況相関的方法選択
    • 1.ある現実的制約(状況)の中で
    • 2.特定の目的を達成するための手段である
    • 子どもたちの発達段階、学級規模、生徒間の関係、生徒と教師の関係、緊急度を考慮する
    • 意味のある学習経験を作ることができるか
  • 学びの方法
    • =自らの経験を通して得た問題意識を、自らの探求や共同の探求によって解決していくこと
  • よい教師とは
    • 自由ができるだけ十全に実質化されていく
      • 1.自己承認
      • 2.他者の承認
      • 3.他者からの承認
    • 子どもたちの自己承認を支える
    • 親和的承認を得る
      =信頼と忍耐
    • きわめて具体的な信頼
    • 7歳~14歳は尊敬し、畏敬できる権威ある大人を求める
    • 権威は人によって認められるもの
    • 教師の多様性と自己了解
    • 自らの価値観や感受性を持つ
    • 信頼、忍耐、権威、自己了解
  • 教育行政の責任・権限を主張に与えること、チェック機能

 

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